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「閉じたシャッターは開ければいい」 ーー 谷口工務店代表 谷口弘和さん インタビュー


 今大津では、来年3月に7棟の町家を一棟貸しの宿として蘇らせる「商店街ホテル大津町家プロジェクト」が着々と進行している。この事業は、市の協力を得て、今年3月末には経済産業省のまちなか集客力向上支援事業にも採択された。この大津の再興の動きの先頭を走るのが、谷口工務店の代表 谷口弘和さんである。

 「商店街ホテル大津町家プロジェクト」への布石として昨年、JR大津駅前にオープンした「大津百町スタジオ」を訪れた。

--本当に綺麗な建物ですね。築百年とは思えません。

谷口:嬉しいですね。「新築よりも住みたい家」をコンセプトにしてるんです。というのも古民家のリノベーションには、かなりお金がかかるんです。

--なるほど。つまり新築するより高いと?

谷口:そうですね。ものにもよりますが、この「百町スタジオ」のようにするにはかかってしまいます。

--それでも、谷口さんは改築へこだわられているのですね。様々な業界で、大手との価格競争の中での不安などはないのですか?

谷口:実際私自身も大手に勤めていたんですが、そこで行われていたのは利益と効率を優先させた家づくり。数をこなさないとやっていけないという状況の中で、手抜き工事が生まれてきたり、大工の体もボロボロになってしまったり。「これではいかん」という強い思いが芽生えました。

--劣悪な労働環境を目の当たりにして、変革を迫られたのですね。

谷口:資本主義社会でさっき言ったよういに職人が泣かされているよな状態は問題だという意識が改革のきっかけです。でも、どうせ会社を作る人は勿論だけど、お客さんも、世間も、彼らの家族も、みんながハッピーになれるような会社を作れたら最高ですよね?

--それができれば間違いなく最高ですね(笑)まさに近江商人「三方よし」の精神で会社を立て直されたのですね。

谷口:それ以来、「みんなが喜ぶ家づくり」を企業理念に掲げています。今ではお陰さまで事業も軌道にのってきて、ようやく「社会も喜ぶ」に本腰を入れて動きだすことができるようになりました。

--本当に感銘を受けます。そういった谷口工務店の精神が結晶化されたのが「商店街ホテル大津町家プロジェクト」ということなのですね。

谷口:そうです。

--ですが、谷口工務店の本社は竜王ですよね?どうして大津の再生に取り組まれようと思われたのですか?

谷口:その質問はよくされるんですが、とても単純です。なんといっても滋賀県の県庁所在地は大津です。かつては品川から始まる東海道53次の最後の宿場町でした。京都に入る前に道中着ていた服を売り、一泊し、綺麗な服を買い、上洛する。大津はそんな宿泊客で賑わった町だったのです。それが今では閑古鳥が鳴いている。それはすごく残念なことだなと。だから大津なんです。

 昔棟梁は町のリーダーであり人格者でした。これからそういう存在にうちの会社もなっていければ嬉しいですね。この会社があるから町が盛り上がった。この会社がないと困るという会社にしていきたいと思っています。

--谷口さんのお話はすごく美しいし憧れます。ですが一方で、本当に綺麗事だけで通る世界なのかなと。すごく意地悪な質問になってしまって恐縮なのですが。

谷口:その通りで、今回のプロジェクトはうちの会社にとっては、今回の事業は一世一代の大勝負。

本当にこの事業によって、商店街に人が来てくれるのかは本当のところはわからないし、かなりのリスクを我が社も背負っています。

--そういったことを考えると尚更二の足を踏みそうなものですよね。大津を再生したいと考えている人は他にもたくさんいるはずです。その中で、どうして谷口さんだけが行動に移せるのでしょう?

谷口:「守らなければならないものがあるから」という理由で挑戦を断念する人はたくさんいます。それに関しては、無論うちも同じです。社員とその家族を守らなければならない。ですが私の考えでは、彼らを「守るため」にこそ挑戦が欠かせないのです。

--「守るため」の挑戦。それが谷口さんの原動力になってるのですね。

谷口:私は何もできないんです。だから自分では何もできないからには、旗振り役をするしかないと思ったんです。理念を掲げて、できる限り力のある人を集めてくる。人の繋がりって結構面白くて、繋がりは繋がりを呼ぶんですよね。自分の役割はそれやろなと。熱意しかないというか。

--それは「使命感」のようなものなのでしょうか?

谷口:そうですね。実は使命感を持つと疲れがなくなってくるんです(笑)「俺がやらなあかん」と勝手に思い込むと疲れないんですよ。不思議と。だから毎日の睡眠時間は4時間とかなんだけど、全く問題ないんです。最近はもうちょっと寝れるよになってるけれど、5時間ぐらい!

--あんまり変わってないですよ(笑)それにしても、ものすごいバイタリティーですね。

谷口:創業当時は3時間、徹夜週2回みたいな生活でしたよ。何していいかわからんかったもので。多分ね、マグロと一緒なんだと思います。進まないと死んじゃうの(笑) どこかで「ラクしたい」なんて思ってるんですけど、ラクするためには頑張らなってなるんですよ(笑)気が付いたら走ってる。まだまだここからですよ!!

kaname メンバーとともに

(文=大澤健)

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